屋久島における狩猟の記録は、最も古いもので江戸時代の楠川古文書のさかのぼる。江戸時代から現在にいたるまで屋久島ではどのような狩猟が行われてきたのか、過去数十年のあいだに大きく変貌をとげた野生動物の人間のかかわりを概観しながら、今後屋久島でどのような狩猟や捕獲が可能なのか、地域社会において狩猟や捕獲を継続していくためには、どのような視点や取り組みが重要になるのか。狩猟や捕獲に関わる猟友会のメンバーをはじめに島の人たちと、野生動物の管理の最前線で舵を取る実務家や行政の関係者、屋久島で研究を行うものたちのあいだで、現在の問題と課題を共有し、未来の青写真を描く場としたい。
日時
2025年12月13日(土)(大会第1日) 13:30-16:30
タイムスケジュール
13:30―13:40 趣旨説明 服部志帆
13:40-14:00 発表1 丸山哲也(栃木県林業センター特別研究員・野生動物管理学)
14:00-14:20 発表2 鈴木正嗣(岐阜大学・野生動物管理学)
14:20-14:40 発表3 大坂桃子(京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科・地域研究)
14:40-15:20 発表4 服部志帆 (天理大学・文化人類学)・牧瀬一郎 (上屋久猟友会)
15:20-15:30 休憩
15:30-15:40 コメンテーター 本郷峻 (総合地球環境学研究所・保全科学)
自由討論
16:20-16:30 総括
発表要旨と登壇者プロフィール
発表1
タイトル:「関係機関の連携による日光国立公園でのニホンジカ対策」
発表者:丸山哲也(栃木県林業センター)
要旨:平成26(2014)年に担当者レベルでの協力体制の構築を目的として、国、県、市の関係機関による「日光地域シカ対策共同体」を設立した。共同体は毎年打合せを実施し、各機関の事業計画についての情報共有を行うとともに、許認可等必要な調整を行っている。また、課題解決に向けたアイデア出しなどざっくばらんな話の中で、事業化につながるきっかけになることもある。さらに、人的協力依頼や物品の借用などは、必要に応じて適宜行っている。共同体の協力体制により、単独の機関ではなし得ないことも実現できている。
発表者プロフィール:
1990年、東京農工大学環境保護学科卒業。1991年栃木県入庁。主に環境森林部自然環境課や林業センターにおいて、鳥獣関係行政に携わる。2023年より現職。おもな著作に『とちぎの野生動物-私たちの研究のカタチ』(關・丸山・奥田・竹内編、随想舎 2016年)や「栃木県における狩猟者の意識と狩猟の実態(I)-シカ捕獲促進策に対する意識(丸山・神崎・上田、『野生鳥獣研究紀要 pp.28-33、 2005)」、「栃木県シカ保護管理計画における狩猟者の役割(丸山・松田、『野生鳥獣研究紀要 pp.18-25、2004)」などがある。

「共同体構成員による植生保護柵設置作業」
発表2
タイトル:「屋久島で行われている計画捕獲の意義と先進性」
発表者:鈴木正嗣(岐阜大学)
要旨:野生鳥獣の捕獲は,狩猟という語のみで一括して語られることが多い。しかし捕獲は,個人の趣味として行われる場合もあれば,生態系被害の低減など,公的な目的のもとに行われる場合もある。この実情を踏まえ,環境省は,前者を「狩猟」として,後者については「許可捕獲」等として区分している。当然のことながら両者間には,従事者に求められる知識や技術にも大きな違いがある。環境省により屋久島で行われている計画捕獲は,公的な目的のもとに行われる捕獲として,他に例を見ない地域密着型の発想と体制で運用されている。
発表者プロフィール:
1989年日本獣医生命科学大学 畜産学研究科 獣医学修了、北海道大学博士(獣医学)。現在、岐阜大学応用生物科学部教授および岐阜県野生動物管理推進センター長。エゾシカ協会会長。おもな著作に、『野生動物管理のための狩猟学』(梶・伊吾田・鈴木編、朝倉書店 2013年)や『野生動物と社会-人間事象からの科学』(伊吾田・上田・鈴木・山本・吉田監訳、文永堂出版 2011年)、「『有害鳥獣』と地域社会 ~よくある誤解・思い込みをひとつずつ解きながら~(『都市問題』109号、pp.77-86、2018)」、「その資源化と利活用、本当に鳥獣害対策として役立ちますか?(『農耕と園芸』71号、pp.12-16、2016)」など。

「環境省が進めている計画捕獲(環境省九州地方環境事務所発行の『ヤクシカと生きる』から転載(タイトルをクリックすると、冊子に飛びます)」
発表3
タイトル:「農作物被害対策の視点から考えるニホンザル捕獲体制の課題」
発表者:大坂桃子(京都大学大学院)
要旨:屋久島では、1980年頃からニホンザルによる農作物被害が大きな問題となってきました。近年被害金額はピーク時と比べて20分の1ほどにまで減ってきましたが、集落を歩いていると、依然として「被害にあって困っている」「捕獲を増やしてほしい」という声を多く聞きます。このギャップを、被害量ではなく農家さんの被害認識の視点から捉えようと研究してきました。今回は、その中で見えてきた農作物被害対策としての捕獲の課題について議論したいと思います。
発表者プロフィール:
京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科博士課程在籍。人と野生動物の関わりをテーマとし、2020年度から、屋久島でニホンザルによる農作物被害について研究してきた。2022年度からは、アフリカ•ガボン共和国にて、農村を利用するマルミミゾウ(アフリカゾウの一種)の生態調査をしている。おもな著作に、「屋久島におけるニホンザル農作物被害問題の所在一住民の被害認識に注目して一(大坂・山越・平木・半谷『霊長類研究』、pp.1-14、2025)や「人が住む世界と野生動物が棲む世界との境界線はどうあるべきか -屋久島からガボンへ-(大坂、『アジア・アフリカ地域研究』21巻1号、pp.128-131、2021)」など。

「自動撮影カメラにうつったタンカンを持ち去るニホンザル」
発表4
タイトル:「屋久島における狩猟および捕獲活動の変遷」
発表者:服部志帆(天理大学)牧瀬一郎(上屋久猟友会)
要旨:古文書の記録によると、遅くとも江戸時代から屋久島では狩猟が行われており、シカやサルは食料や薬、交易品として猟師や島の人々の生活を支えてきました。しかし1960年代以降、生活の変容や禁猟政策の影響を受けて、趣味でおこなうスポーツハンティングの色合いを強め、2000年代になると、獣害をおこすシカやサルの有害捕獲が活発化しました。生活や自然環境のあり方、環境政策によって変わってきた、屋久島における狩猟や捕獲について、34年にわたって第一線で活動してきた牧瀬一郎による現場の声を紹介しながら、発表します。
発表者プロフィール:服部志帆
2008年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、京都大学博士(地域研究)。現在、天理大学国際学部准教授。自然と人間の関わりをテーマとし、カメルーンでは狩猟採集民バカを対象に、日本の屋久島では猟師を対象に研究を行っている。近年の著書に『霊長類学者川村俊蔵のフィールドノート-1950年代屋久島の猟師と後継者たち』(南方新社2021年)や『アートと人類学の共創-空き家・もの・こと・記憶』(服部・小野・横谷編、水声社2023年)などがある。2018年に屋久島町歴史民俗資料館において「よみがえる罠展-1950年代を生きた屋久島の猟師たち(2018年12月~2019年2月」を企画し、今回のテーマセッションにあわせて、猟具や伝承に関する展覧会を同資料館において企画している。
発表者プロフィール:牧瀬一郎
上屋久猟友会会長、ヤクニク屋代表。屋久島生まれ。狩猟歴は34年に及ぶ。2014年10月に有害鳥獣として捕獲されたヤクシカを有効活用するために、宮之浦でヤクニク屋をオープンする。環境省が2017年から実施しているシャープ・シューティングのメンバーでもある。おもな著作に、「サル二万,シカ二万,ヒト二万 屋久島のシカと森の今(手塚・牧瀬・荒田・湯本.『世界遺産をシカが喰う,シカと森の生態学(湯本・松田編、pp. 189–202.2006年 文一総合出版』)」や「ヤクシカ猟の過去と現在 (牧瀬一郎、『グリーンパワー2011年10月号』、pp.6-7. 2011年 公益財団法人森林文化協会)」など。

「半世紀前までサルを生け捕りにしていたローヤワナ」

「安房の森林でシカ狩りをする牧瀬(2018年3月)」
コメンテーター
〇本郷峻 (総合地球環境学研究所)
プロフィール:
愛知県名古屋市生まれ。2016年、京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。京都大学霊長類研究所・研究員、同アフリカ地域研究資料センター・特定研究員、国際協力機構 (JICA) ・長期専門家などを経て、2024年より現職において、「地域知と科学との対話による公正で持続的な狩猟マネジメント」プロジェクトを率いている。長期フィールド調査を研究の主軸とする。自動撮影カメラなど科学的手法と狩猟者の地域知とを組み合わせ、熱帯雨林地域の狩猟マネジメント法の開発に取り組む。 主要な著書に、 『人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality) (下): 共感社会と家族の過去、現在、未来(山極・本郷 2018年 詩想舎)』、「はじめてのフィールドワーク ①アジア・アフリカの哺乳類編(田島ほか 2016年 東海大学出版部)」、監修に「動物 新訂二版(山極・本郷 2024年 講談社)」などがある。

「アマゾンの森をカヌーで上る」
場所:プエルト・ナリニョ、アマゾナス、コロンビア
撮影年月:2023年7月
撮影者:Marlon del Aguila Guerrero