第10回大会ミニセッション2「屋久島におけるマツ枯対策 ~マツ枯0の世界自然遺産の島を目指して~」

開催日時

2022年12月4日(大会第2日) 12:00-13:20

コーディネーター

金谷整一(森林総合研究所九州支所)

概要

絶滅危惧種ヤクタネゴヨウ、南限のマツ属樹種アカマツおよびクロマツの保全を目指すため、現在脅威となっている外来のマツ材線虫病対策について、10年以上にわたって繰り広げられてきた活動を紹介する。また、将来的に「マツ枯0の世界自然遺産の島」を達成するには、民・官・学が協働で取り組んでいく機運をさらに深化させていくきっかけとしたい。なお、本セッションは、森林総合研究所の産学官民・地域連携推進のための活動費「屋久島の世界自然遺産地域内におけるマツ材線虫病被害対策」の成果の一部として開催される。

講演要旨

マツ材線虫病(松くい虫被害)について
秋庭 満輝(森林総合研究所)

マツ材線虫病は、線虫の一種(マツノザイセンチュウ)を病原とするマツ類の伝染病である。マツノザイセンチュウは媒介昆虫(マツノマダラカミキリ)によって健全なマツへと伝搬される。マツノザイセンチュウは北米原産の線虫であり、日本には20世紀始め頃に侵入したと考えられている。日本のマツがこの線虫に極めて感受性であったため、北海道を除く日本全国の松林に大きな被害を与えている。屋久島も例外ではなく、1995年以降は小康状態だったのが現在は海岸~低地のクロマツにかなりの被害が発生している。ヤクタネゴヨウもマツノザイセンチュウに感受性であり、絶滅危惧種の衰退要因の一つということで懸念されている。今回は、マツ材線虫病の基本的な仕組みを紹介した後に、ヤクタネゴヨウが枯れる時の特徴などについてお話したい。

屋久島の国有林における松枯れ対策について
木村慈延(林野庁屋久島森林管理署)

屋久島森林管理署では、関係者と連携しながらヤクタネゴヨウや公益性の高い松林を保護するための事業を実施しています。これまでの取り組み状況について報告します。

世界遺産地域内ヤクタネゴヨウ自生地保護を目的とした松枯れ対策について
市川惇史(環境省屋久島自然保護官事務所)

屋久島では、松枯れ対策協議会が発足して以来、各行政機関が連携して対策を実施している。それぞれが役割を担う中で、環境省が行う世界遺産地域内での活動やその影響について、報告します。

屋久島におけるマツ材材線虫病対策の実践!!
手塚賢至(屋久島・ヤクタネゴヨウ調査隊 代表)

ヤクタネゴヨウ(絶滅危惧ⅠB類)に絶滅の脅威を与えている材線虫病は厄介な伝染病です。いましも、世界遺産地域の西部や南部の破沙岳でヤクタネゴヨウの枯死が進行する中で、連携機関と協働して自生地および周辺で実施するヤッタネ!調査隊の取り組みを紹介します。

講演者等プロフィール

コーディネータ:金谷 整一(かねたに せいいち)
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所 森林生態系研究グループ主任研究員。九州大学大学院農学研究科博士課程修了(博士[農学])。
専門は森林遺伝学と保全生態学。鹿児島大学在籍時より屋久島の森林の研究に携わる。1994年に九州大学大学院に編入学し、本格的にヤクタネゴヨウの保全に関する研究を開始し、2000年に森林総合研究所に配属後も継続して取組んでいる。近年は、越境大気汚染物質による影響や外生菌根菌との共生関係について、共同で研究を進めている。

秋庭 満輝(あきば みつてる)
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域きのこ研究室長。博士(農学)。
専門は森林病理学と線虫学。1995年に森林総合研究所九州支所に配属後にマツ材線虫病(松くい虫被害)・南根腐病などの樹木病害の研究を担当。九州支所在籍時にヤクタネゴヨウの材線虫病の調査に携わる。

木村慈延(きむら しげのぶ)
林野庁九州森林管理局屋久島森林管理署 森林整備官
2007年に東京環境工科専門学校自然環境保全学科卒業。卒業後は自然関係の仕事に従事。2014年より環境省に入省し、国立公園の管理や希少動植物の保護増殖に係わる業務を経験。現在は、2020年に開始した国立公園と国有林の連携事業の一環として屋久島森林管理署に出向中。主にヤクシカの捕獲や松枯れ対策事業を担当。

市川 惇史(いちかわ あつし)
環境省屋久島自然保護官事務所 自然保護官
2019年明治大学農学部卒。2020年より環境省に入省し、九州地方環境事務所国立公園課を経て屋久島自然保護官事務所に赴任。屋久島では、世界遺産や国立公園の管理をはじめ、ウミガメや希少植物に関連した業務に携わる。

手塚賢至(てつか けんし)
屋久島・ヤクタネゴヨウ調査隊 代表。屋久島学ソサエティ副会長。

コメンテータ:中村 克典(なかむら かつのり)
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所 産学官民連携推進調整監。広島大学生物圏科学研究科博士課程後期中退後学位取得(博士[学術])。
マツ材線虫病(松くい虫被害)をはじめとする森林病害発生に関わる生物の生態と防除に関する研究を担当するなかで、九州支所勤務時の1990年代よりヤクタネゴヨウの材線虫病被害実態調査と防除に関わる。東日本大震災以降は、津波による海岸マツ林被害に関する調査研究にも従事。