第10回大会テーマセッション2「屋久島における健康ウェルネス研究のプレリュード(序章)」

日時

2022年12月4日(日)(大会2日目) 13:30-17:00

趣旨

屋久島における森林の健康効果の研究成果が世界に紹介されたことより、「Shinrinyoku」という言葉は、世界の共通言語となっています。森林医学研究の発祥地のひとつである屋久島において、「森/自然」と「人/社会」との「健康/幸福」の関係性について、統合的な健康ウェルネス研究を進めていきたいと考えています。ストレスの多い現在社会おける様々な健康ニーズに答えるため、また高齢化社会の進む離島における新しい健康圏モデルの構築において、学際的な研究成果を世界に発信していく端緒として、今回のテーマセッションを企画させていただきました。

コーディネータ

杉下智彦(屋久島尾之間診療所院長、東京女子医科大学客員教授)

タイムテーブル

13:30 趣旨説明  杉下智彦(屋久島尾之間診療所、モデレータ)
13:40  基調講演「森林医学の魅力と可能性」 今井通子(医師、登山家、国際森林医学会会長)
14:00-15:00  第1セッション 森林医学の成果と展望
1.「森林医学の成果」李卿(日本医科大学臨床教授、国際自然・森林医学会副会長・事務局長)
2.「森林医学の最新動向」落合博子(国立病院機構東京医療センター部長、国際森林医学会認定医)
3.「屋久島における森林浴の展望」杉下真絹子(カレイドスコープ代表)
4.コメント 高山範理(森林総合研究所チーム長)
15:00-15:10 休憩
15:10-16:10 第2部 屋久島における新しい健康モデルの構築
1. 「地域医療の限界を超える為に〜終末期医療の視点から〜」小橋友理江(福島県立医大大学院)
2. 「自宅で最期を迎えられる島の医療福祉の体制づくり」淀みゆき(隠岐島海士診療所)
3.「屋久島健康圏構想」杉下智彦(屋久島尾之間診療所)
4. コメント 藤村憲治(元屋久島町栗生診療所所長)
16:10-17:00 発表者全員によるパネルトーク(モデレータ: 杉下智彦)

講演

「森林医学の魅力と可能性」
今井通子(医師、登山家、国際森林医学会会長)

1982年に提唱された“森林浴”と、医・科学的効果の研究に着手した日本発の試みは、2006年には、森林医学として流布され、2010年前後からは、国際的な調査研究へと移行したが、その実践は未だ確立されていない。産業革命以降約200年で疲弊した地球環境とヒトの健全な未来を目指す手段のひとつとして共に考えたい。

「森林医学の成果」
李卿(日本医科大学臨床教授、国際自然・森林医学会副会長・事務局長)

 森林医学は森林環境による健康影響を研究する新しい予防医学・環境医学である。森林医学の成果は以下の通り。抗がん免疫機能を上昇させ、がんの予防効果、ストレス減少効果、副交感神経と交感神経を調整するリラックス効果、高血圧症と心臓病の予防効果、うつ病の予防効果、睡眠改善効果、リハビリテーション診療への応用、コロナ感染症予防効果。

「森林医学の最新動向」
落合博子(国立病院機構東京医療センター部長、国際森林医学会認定医)

 日本では高齢化に伴う社会変革を見据えて、健康寿命延伸のための健康づくり、企業の人材確保や離職防止、生産性向上などに対する国策が進められている。そこで、これまでに森林医学で証明されてきた様々な健康効果を利用する取り組みが始まっている。林野庁の森林サービス産業や企業の健康経営における森林環境の活用などについて紹介したい。

「屋久島における森林浴の展望」
杉下真絹子(カレイドスコープ代表)

 どうしたら私たちは自然の中で、心も身体も満たされるのか。自然やいのちのリズムに心を澄ますことで、自分の中の分離、他者との分離、自然との分離を解き放ち、一つ一つの関係性を取り戻していくプロセスの中に、本当の意味での健康や人生の充足感が生まれるのではないだろうか。屋久島の奥深い森の中でdeep森林浴プログラムの実践を通して、見えてきた屋久島の新しい森の過ごし方の可能性と展望について話したい。

「地域医療の限界を超える為に〜終末期医療の視点から〜」
小橋友理江(福島県立医大大学院)
 都市地方の医療格差は拡大しており、地域の医療を活性化する事は、重要である。筆者は、Public Health×Clinical Practice×Scienceというコンセプトの元、地域の中の課題を、草の根レベルで解決するプロジェクトを行う事を目指している。終末期医療の観点から、屋久島でどのように取り組みを行おうとしているかを、ご紹介させて頂きたい。

「自宅で最期を迎えられる島の医療福祉の体制づくり」
淀みゆき(隠岐島海士診療所)

 海士町は日本海の島根半島沖合60kmにある隠岐諸島の一つで、人口約2200人、高齢化率40%弱、医療機関は無床診療所の自施設のみでありながら、在宅看取り率は毎年30~50%と全国的にも上位を占める。コンビニもドラッグストアもない離島でなぜ在宅看取りが可能なのか、医療・福祉・行政の連携体制を中心に紹介したい。

「屋久島健康圏構想」
杉下智彦(屋久島尾之間診療所)

  屋久島においては、急速な高齢化と移住者の増加を背景に、全世代の医療・介護・福祉ニーズに対応した新たな医療圏、急性期、回復期、慢性期、在宅・介護サービスのシームレスな連携による地域医療システムを構築することが急務となっている。「誰もが住み慣れた場所で、末永く安心して暮らす」ことを目標に、屋久島尾之間診療所が中心となって医療・介護・福祉分野事業所と自治体代表者による「尾之間庁舎跡地利活用フォーラム」を設立し、屋久島医療圏の長期計画を策定した。発表ではその概要をご報告したい。

講演者・コメンテータプロフィール

杉下 智彦(すぎした ともひこ)
外科医師、保健システム専門家、医療人類学者。東北大学医学部、ハーバード大学院、ロンドン大学院、GLUK大学院卒業。1995年アフリカのマラウイ共和国で3年間外科診療に携わる。JICAグローバルヘルスアドバイザーとしてアフリカを中心に30か国以上で保健システム案件の技術指導を行う。2015年「持続可能な開発目標(SDGs)」の国際委員。2014年ソーシャル・ビジネス・グランプリ大賞受賞。2016年医療功労賞受賞。2016年より東京女子医科大学国際環境・熱帯学講座教授。2022年4月より屋久島に移住し尾之間診療所を承継。離島健康圏モデルの構築を手掛けている。
今井 通子(いまい みちこ)
1942年東京生まれ。東京女子医科大学卒業。医学博士。東京農業大学客員教授。兵庫県立森林大学校特任大使。NPO法人森林セラピーソサエティ理事。International Society of Nature and Forest Medicine(INFOM)会長。山に登り続けながら、医師という科学的な視点から自然と触れ合う事の意味や大切さを見つめる。「みどりの日」自然環境功労者環境大臣表彰「自然ふれあい部門」受賞。
李 卿 (Qing Li) 
中国・山西医科大学卒業、鹿児島大学医学博士、スタンフォード大学留学、日本医科大学医師・教授、森林医学研究会代表世話人、国際自然・森林医学会副会長・事務局長、森林セラピーソサエティ理事、受賞歴:日本衛生学会賞、日本医科大学賞、(財)博慈会老人病研究所優秀論文賞、日本産業衛生学会奨励賞、日本医科大学奨学賞、著書:Forest Medicine、Shinrin-yoku(26ヶ国語に翻訳)、Forest Bathing(米国でベストセラー)、International Handbook of Forest Therapy、森林浴
落合 博子(おちあい ひろこ)
国立病院機構東京医療センター形成外科科長、産業保健室長(医学博士)。2012年にINFOM認定医の資格を取得後、森林の健康効果を研究しながら国際的な普及を目指す。毎週末ハイキングや森林関連のイベントにでかけて森林浴を実践中。林野庁「サービス産業」検討委員、国際ハンドブックの執筆を担当。
杉下真絹子(すぎした まきこ)
20年間、地域保健/国際保健専門家として、アフリカや東南アジアにおいて国際協力分野で活動後、2020年春に屋久島に移住。森とウェルビーングをテーマに森林セラピーガイド/セラピストとして独自の【屋久島deep森林浴】プログラムを展開中。日本人初の米国森林セラピーガイド認定取得。屋久島町教育委員会ESDグローバルアドバイザー、屋久島尾之間診療所理事、関西大学卒業、ピッツバーグ大学院(社会経済開発)修士、ジョンズホプキンス大学院(公衆衛生)修士。
高山 範理(たかやま のりまさ)
(国研)森林機構 森林総合研究所 チーム長(森林空間利用推進担当)。幼い頃より森林浴に興味をもち、学部時代は森林科学、大学院ではランドスケープ科学を専攻し、東京大学から農学博士、人間総合科学大学から心身健康科学博士を授与される。著書に「エビデンスからみた森林浴のストレス低減効果と今後の展開」等多数。
小橋友理江(こばし ゆりえ)
鹿児島市生まれ、茨城育ち。2014年和歌山県立医科大学医学部卒業。麻酔科医・内科医。公衆衛生学修士。東京都立多摩総合医療センターで麻酔の後期研修後、2019年より福島県立医科大学博士課程。サンライズジャパンホスピタル、ひらた中央病院などで勤務。専門は国際保険、地域医療、新型コロナの抗体検査など。
淀みゆき(よど みゆき)
海士町国保海士診療所/看護師。訪問看護歴16年。遺体感染管理士、5年前に緩和ケア認定看護師資格を取得。海士で最期を迎えたいと希望する患者やご家族の医療・介護相談から看取り実践、マネジメントを担い、医療・福祉・行政の連携強化にも従事。プライベートは超インドア派で高3と中1の男子をもつ母。
藤村 憲治(ふじむら のりはる)
屋久島町生まれ。熊本大学医学部卒業、旧国立熊本病院、今給黎総合病院を経て、旧屋久町栗生診療所所長、鹿児島大大学人文社会科学研究科修士課程卒業。著書に「死因『老衰』とは何か」「世界自然遺産の島の医療史」