第9回大会テーマセッション1「琉球弧につらなる世界自然遺産:屋久島、奄美・沖縄」

2021年12月4日(土)(大会1日目)

開催趣旨

南九州から台湾へ弧状に連なる琉球弧は、温暖湿潤な暖温帯〜亜熱帯気候で多様な植生や豊かな生物多様性を擁している。このたび奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(奄美・沖縄)がユネスコ世界自然遺産に登録されることが決まり、北端部の屋久島と合わせて、琉球弧の代表的な自然が世界自然遺産として後世に伝えられることになった。この琉球弧の自然を横断的に、地質・地史、植生、爬虫類両生類、鳥類、昆虫の立場から概説し、その共通性と島ごとの特殊性・固有性について理解を深めたい。

コーディネータ:湯本貴和
(ゆもと たかかず)
京都大学霊長類研究所教授/所長。京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。大学院生のときの屋久島での研究以降、アフリカ、東南アジア、南米の熱帯林で、動物ー植物相互関係の研究を行なっている。最近は保全とツーリズムなど異なる生態系サービス利用の社会的な利害調整に興味をもっている。現在、日本生態学会会長、屋久島学ソサエティ会長。

安間 了「屋久島の成立とフィリッピン海プレートの移動」

屋久島町は1つの行政区の中に堆積岩あり、花崗岩あり、火山あり、段丘ありと、地球科学的にも盛りだくさんで最高に贅沢な町である。このような地質学的多様性は、様々な生態系を育む基盤としても重要だ。『屋久島地質たんけんマップ』や『屋久島の地質ガイド』の発行から10年が経とうとしているが、この間、鬼界カルデラ大規模噴火に伴う地震動・津波災害についての知見や、屋久島の地下深部にもぐり込むフィリッピン海プレートの知見について大きな進展があり、私たちのこれまでの認識について再検討するべき時期に来ている。私の発表では、最近明らかになったフィリッピン海プレートの年代構造と、それが島弧地殻の変形や火成作用にどのような影響を与えうるか、という話を中心に、海上アルプスが成立して以来の地殻と海水準の変動を追いながら、屋久島の古地理の変遷について紹介したい。

(あんま りょう)
徳島大学社会産業理工学研究部教授。ウプサラ大学大学院地球科学研究科博士課程修了(PhD)。琉球大学大学海洋学科院生のときに屋久島の地質学的成立に関わる研究を行って以降、西南日本、南米パタゴニア地方、西アジアなどをフィールドに、海嶺沈み込みとマグマティズムの関係の研究を行なっている。筑波大学講師時代に海洋研究開発機構の潜水艇や掘削船を利用した海洋底調査を開始し、南海トラフやパタゴニア沖の調査に参加した。国際深海掘削計画(IODP)の各種委員を歴任。

相場慎一郎 「屋久島と奄美・沖縄の植物相と植生」

九州と台湾の間に連なる南西諸島の植物相と植生は、トカラ海峡で大きく二分され、屋久島は基本的には日本本土の延長であるのに対し、奄美群島以南は南方との関係が深いとされる。トカラ海峡付近では気候も大きく変化し、屋久島以北は温帯、奄美以南は亜熱帯とされる。屋久島には1936mに達する高い山があるのに、奄美以南の最高峰は694mに過ぎないことも、トカラ海峡を挟んだ植物相と植生の変化をもたらしており、屋久島までは冷温帯林(日本本土では落葉広葉樹林)が存在するが、奄美以南には照葉樹林のみが存在する。ただし、奄美以南でも標高が高くなると気温が低下するので、積算温度(暖かさの指数)で屋久島以北の暖温帯林と奄美以南の亜熱帯林を完全に区別することはできない。南西諸島の原生的照葉樹林の樹木種組成を見ると、出現種数の半分以上はトカラ海峡以北と以南で共通するが、奄美以南のみに出現する種の方が屋久島以北にのみ出現する種数より多いため、面積当たりの種多様性も奄美以南の方が高くなる。したがって、屋久島以北の暖温帯林と奄美以南の亜熱帯林の多様性の違いは、トカラ海峡による隔離が主因であると考えられる。

(あいば しんいちろう)
北海道大学大学院地球環境科学研究院教授。北海道大学大学院地球環境科学研究科博士後期課程修了(博士 [理学])。大学院生の時に1993年屋久島原生自然環境保全地域調査に参加。博士の学位取得後、2019年まで鹿児島大学で熱帯林および九州南部・屋久島・奄美群島の森林を研究。現在は北海道の森林も研究している。

太田 英利「南西諸島の爬虫類と両生類の多様性: その現状・成立の背景・そして保全に向けた今後の課題について」

日本の国内からは現在、110種・亜種の爬虫類と100種・亜種の両生類の繁殖集団が知られており、そのうちそれぞれ97種・亜種、96種・亜種が在来と考えられている。在来の爬虫類のうち吐噶喇海峡以南の南西諸島に分布するのは68種・亜種で、うち53種・亜種がこの地域に固有となっている。いっぽう両生類では27種・亜種が南西諸島に在来分布しており、うち23種・亜種がこの地域に固有である。今回、世界自然遺産に登録された4つの島嶼・地域は、両生類についてはほとんどの在来種・亜種の主要な生息地をカバーできているが、爬虫類に関しては多くの固有で希少な種・亜種の生息地がはずれてしまっている。本発表では、まず南西諸島の爬虫類相と両生類相それぞれの特徴を成立の背景と考えられる事象とともに概観する。その上で今後、それらの多様性を保全してゆく上で必要と考えられる施策等について検討してみたい。

(おおた ひでとし)
兵庫県立大学自然・環境科学研究所教授/兵庫県立人と自然の博物館研究部長。京都大学大学院理学研究科博士後期課程中退(博士 [理学])。学生時代より琉球の島々や台湾の爬虫・両生類の分布や分類に興味を持ち、琉球大学在任中の20年あまりは、東南アジア、西太平洋を含む熱帯・亜熱帯島嶼におけるこれら動物群の多様性の現状とその形成過程の解明と保全について総合的に取り組む。この10年ほどは、化石や骨格残骸からの関連情報の抽出にも努めている。「奄美・沖縄」世界自然遺産候補地科学委員会委員、日本爬虫両棲類学会会長。

西海 功「幻と消えた蜂須賀線:種によって多彩な分岐を示す琉球弧の鳥たち」

蜂須賀線は、蜂須賀正氏が1926年に発表した、八重山諸島と沖縄島との間に引かれる鳥類の生物地理境界のことだが、今日知られる種や亜種の分布から見ると琉球列島内のどこにもはっきりとした境界を引くことは鳥ではできない。南方系の鳥も北方系の鳥もどの島まで到達できたかは種によってまちまちで、鳥相は南から北へ徐々に移り変わっている。分子系統を調べても種ごとに違う集団構造が見られる。鳥の集団構造は海で隔てられている期間の長さや距離の長さに影響して形成されてきたと推測されるが、琉球列島の鳥類ではその証拠はみられない。琉球列島の固有種には、新固有と古固有(遺存固有)がある。新固有は新たに琉球列島で種分化し固有化した種を指し、古固有はかつて大陸にも分布していたが大陸では近縁種との競争に負けるなどして絶滅し、琉球列島のみに残った種を指す。しかし固有種の中にも新しい種を生み出す元になった種がいるかもしれない。例えばルリカケスはカケスを、ノグチゲラはオオアカゲラを生み出して、その後、カケスやオオアカゲラが分布を拡大し、ユーラシア大陸に広まった可能性がある。

(にしうみ いさお)
国立科学博物館動物研究部研究主幹。九州大学大学院比較社会文化研究院客員教授。博士(理学)京都大学。元日本鳥学会会長。日本鳥類目録編集委員長。屋久島では2011年に固有亜種のヤクシマヤマガラや隔離分布のミヤケコゲラなどの調査をおこなった。日本列島の鳥類のほか、東南アジアでも調査をおこない、近年はミャンマーとブータンの鳥の集団構造について調べている。鳥類のDNAバーコーディングに山階鳥類研究所などと協力して取り組んでいる。

山根正気「南西諸島の昆虫の話題:ハチとアリを中心に」

南西諸島からは数千種の昆虫類が記録されている。南西諸島は南北に1,200kmにおよび、暖温帯から亜熱帯の生態系をもつことから、そこに生息する昆虫類は極めて多様である。奄美群島や沖縄諸島(中琉球)のように長い隔離期間をもつ地域にはヤンバルテナガコガネなど、固有種が多い。一方で、南北から分布を拡大した広域分布種もある。それらの中には日本本土や台湾との共通種や近縁種であっても、独特の生活史や行動特性をもつものもある。例えば、奄美大島のアマミクロスズメバチは日本で唯一、年中活動が見られ多年性の社会を形成している。また最近、人間の活動によってさまざまな昆虫が島間を移動して、本来の自然分布が撹乱される事例があとをたたない。これまで奄美群島を分布北限としてきた外来性のアリが近年つぎつぎに九州や本州へ運ばれる例も増えてきた。今回は、ハチやアリを例にとって、興味深い分布パターン、特異な生活史、人為による分布撹乱などをテーマにお話ししたい。

(やまね せいき)
鹿児島大学名誉教授。鹿児島大学総合研究博物館協力研究者。アジアのアリ研究ネットワーク(ANeT)アドバイザー。有剣ハチ類・アリ類の分類と生物地理をテーマとし、北東アジア・東南アジアでフィールドワークに従事。南西諸島では30以上の島々でハチ・アリ相を調査するとともに、最近では外来種の分布拡大にも注意を注いでいる。

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