タカツルラン

テーマセッション2

「屋久島低地照葉樹林の多様性とその保全」-新種発見が相次ぐ菌従属栄養植物が明らかにする世界-

コーディネーター 手塚賢至

屋久島では近年、新種植物の発見が相次いでいます。ヤクノヒナホシ、ヤクシマソウ、タブガワムヨウラン、タブガワヤツシロランなどの無葉蘭や腐生植物と言われてきた「菌従属栄養植物」が屋久島の原生的な低地照葉樹林の中で生育していることが明らかになってきています。活発な調査により新種の可能性がある未記載種も多く見つかり、この分野の研究が大きく進展しています。こうした照葉樹林への新たな価値に注目が高まる半面、身近にありながら貴重な森林という認識が乏しいまま無残に失われている現状があります。
今回は新種発見に貢献、関与する写真家や研究者による素晴しい写真による新種の植物たちや菌類の紹介、研究最前線から得られた数々の専門的な最新の知見の発表、そして屋久島の低地照葉樹林の豊かさを象徴する椨川流域で新たに始まった種の多様性を解明する植生調査の報告などにより、菌従属栄養植物への理解と併せて、屋久島の照葉樹林の貴重な価値を共通認識し、森林保全への道筋を皆さんと共に描きたいと願っています。

参考資料はこちら  その1 (PDF 1.7 MB) その2 (PDF 1.3 MB)

日時 11月27日(日)
会場 屋久島町総合センター(安房)

発表者:末次健司(神戸大学)、辻田有紀(佐賀大学)、山下大明(写真家)、布施健吾(九州大学)

タブガワヤツシロラン
タブガワヤツシロラン

山下大明
低地照葉樹林の今

屋久島の照葉樹林には、いまだに未知の植物が眠っています。とりわけ川の流域に切り残された原生的な低地の照葉樹林は、貴重種の宝庫です。この身近な森を、菌類の営みを通して見つめてみると、その菌類と植物たちの育む豊かな生態系には驚くほかありません。菌根共生、木材腐朽菌、菌従属栄養植物といったことを考え、森を見つめると、私たちが生きていくべき方向すら見えてきます。その森がいま、杉植林地の皆伐や林道工事、治山ダム建設などに伴い、危機に瀕しています。この低地の照葉樹林を損なうことなく未来へ手渡すために、私たちは何をしなくてはいけないのでしょう。「種の保存法」など世界自然遺産の島に相応しい保護計画を、早急に立案し実行に移してほしいと思います。

《やました ひろあき》
写真家。日本写真家協会会員1955 年、鹿児島県生まれ。小学生の頃から、森に浸る。1992 年より屋久島在住。著書に写真集「樹よ。」(小学館)、同復刻版「樹よ。」「月の森」 (野草社)、写文集「水が流れている」(文・山尾三省、 野草社)、「森の中の小さなテント」(野草
社)、写真絵本「時間の森」(そうえん社)、「水は、」(福音館書店)などがある

yamashita

ヤクノホナホシ
ヤクノホナホシ

末次健司
屋久島の豊かな森に支えられた光合成をやめた不思議な植物

光合成をやめた菌従属栄養植物は、森の生態系に取り入り、寄生する存在です。このため生態系に余裕があり、資源の余剰分を菌従属栄養植物が使ってしまっても問題のない安定した森林でなければ、菌従属栄養植物が生育することはできません。つまり菌従属栄養植物が存在する事実は、肉眼では見えない菌糸のネットワークの豊かな地下生態系が広がっていることを示しています。 屋久島では、2008 年に新種のヤクノヒナホシ、2015 年に日本初記録のタブガワヤツシロラン、そして今年に入って新種のヤクシマソウ、タブガワムヨウランと菌従属栄養植物の新発見が相次いでいます。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられたこれらの植物の発見は、屋久島の低地照葉樹林の重要性を改めて示すものです。

《すえつぐ けんじ》
1987 年奈良県奈良市生まれ。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程修了。京都大学白眉センター特定助教を経て、現在神戸大学理学研究科特命講師。専門は植物生態学。
陸上におけるさまざまな相利共生系 (菌根共生系、送粉共生系など)とその相利共生系に潜む寄生者の「実態」を明らかにするべく調査研究を行っている。

suetsugu

ヤクシマラン
ヤクシマラン
シラヒゲムヨウラン
シラヒゲムヨウラン

辻田有紀
世界最大の菌従属栄養植物タカツルランの謎に迫る

光合成を行わず、共生する菌類に栄養を依存する不思議な菌従属栄養植物。その中でも世界で最も大きいといわれるタカツルランの知られざる生態の一端をご紹介致します。タカツルランはラン科植物で、日本〜東南アジアにかけて広く分布しており、ここ屋久島を含む熊毛三島が世界の分布の北限です。本種は、原生的な森を好むつる性の多年生植物で、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧IA 類に指定されています。私達は、種子島・口永良部島・沖縄本土に自生するタカツルランを調査し、本種が好む樹木特性や、多様な木材腐朽菌と共生していることなどを明らかにしました。本講演では、タカツルラン研究の最前線をご紹介致します。

タカツルラン
タカツルラン

《つじた ゆき》
佐賀大学農学部応用生物科学科花卉園芸学研究室 准教授。九州大学農学部で学位を取得後、ランの共生菌の研究にのめり込み、現在はそれを専門とする。2人の娘を育てながら研究と教育活動に奮闘中。タカツルランをはじめ、様々な野生ランの研究を全国で行っており、屋久島は最も好きなフィールドの1つ。

%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%83%e3%83%97%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%83%8901

布施健吾
植生調査「ライントランセクト法」によって見えてくるもの

生物多様性のホットスポットともいわれる、屋久島や東南アジア熱帯林(照葉樹林帯)では、実際どのようにしてその種多様性を調べているのでしょうか。ライントランセクト法による植生調査の結果から見えてきた、豊な命を育む森林の様子とそこで出会った菌従属栄養植物をはじめとする様々な生き物たち、また、調査時に使用する大切な道具や、標本作製作業等についてご紹介します。

トランセクト調査の様子
トランセクト調査の様子

《ふせ けんご》
九州大学アジア保全生態学センターを経て、現在九州大学決断科学センターテクニカルスタッフ。植物・魚類・昆虫等の分布調査を主として、文化的な側面の聞き取り調査など、様々なフィールドワークを行っている。主な調査地は屋久島・カンボジア・ベトナム・マレーシア・インドネシア他。なかでも屋久島の人々や自然に強く惹かれており2000 年の11 月に訪れて以来、毎年5~10 回は訪れている。

fuse