テーマセッション3
「屋久島のニホンザル:歴史と多様性をひもとく」
12月16日(日) 14:00~16:30
屋久島でのニホンザル研究は、1950年代、屋久島の人と自然の関係についての貴重な記録を残した、川村俊蔵と伊谷純一郎の予備的な調査に始まる。その後、本格的な研究が1970年代に始まり、西部林道を中心にして、複数の群れのサルを識別し、人間に馴らして詳細な行動を観察する、という調査を、何十人もの研究者が引き継ぎながら行うことで継続してきた。40年以上に及ぶ長期継続調査で明らかになった、ニホンザルの社会変動の記録は、世界的にも貴重な資料である。一方、1990年代後半から本格的に行われるようになった上部域の調査も軌道に乗り、サルたちがヤクスギ林で西部林道とは大きく異なる生活を送っていることが明らかになってきた。さらに最近では、山頂部のヤクシマダケ草原に住むサルについても、調査が進められている。このテーマセッションでは、植生の垂直分布に応じて変化する、屋久島の多様な自然の中で、ニホンザルがどのように暮らしているのかについての長期研究の成果を概観したい。また、最新の研究技術を用いた、屋久島のニホンザル研究のこれからについても議論したい。
写真:山頂近くのローソク岩の前で毛づくろいするヤクシマザル(撮影:本田剛章)
講演者
服部志帆(天理大学)「川村・伊谷の1950年代の屋久島のニホンザル調査」
杉浦秀樹(京都大学)「西部林道での長期研究」
半谷吾郎(京都大学)「屋久島のニホンザルの分布とヤクスギ林での長期研究」
本田剛章(京都大学)「サルとササ:屋久島山頂部のサルの生態」
澤田晶子(中部大学)「最新技術を用いたニホンザル研究の将来」
服部志帆(天理大学)
「川村・伊谷の1950年代の屋久島のニホンザル調査」
2012年に霊長類研究所で、川村俊蔵博士のフィールドノートが見つかりました。このなかには、川村が伊谷純一郎博士とともにサルの調査地開拓のために1952と53年に屋久島を訪れたときの記録が含まれていました。ノートの情報をもとに、まず川村と伊谷の足どりを追います。そして、川村が猟師に対して行った濃密な聞き取りから得られたニホンザルに関する情報を紹介します。パイオニアであった当時の霊長類学者の調査方法や着眼点についてもお話ししたいと思います。
杉浦秀樹(京都大学)
「西部林道での長期研究」
屋久島の西部林道でニホンザルの調査は、1973年に始まり、以来45年にわたって続いてきました。それまでのニホンザル研究は餌場での観察を中心にしたものでしたが、屋久島・西部地域での調査によって、自然なニホンザルの姿を知ることができました。しかし、長年の研究からは、過去・現在の人間の活動からもかなり影響を受けている可能性も見えてきてました。西部地域で分かったことは何か、それは「自然な」ニホンザルの姿と捉えていいのか、ということを考えてみたいと思います。
半谷吾郎(京都大学霊長類研究所)
「屋久島のニホンザルの分布とヤクスギ林のニホンザルの生態」
今年結成30年を迎えた「ヤクザル調査隊」は、1989年から1997年にかけて、屋久島全域のニホンザルの分布を明らかにしてきました。その成果の上に立ち、現在は屋久島西部、大川林道終点付近のヤクスギ林で、長期継続調査を行っています。20年以上にわたるデータが蓄積され、サルたちの暮らしが、西部林道とは大きく異なることが明らかになってきました。
本田剛章(京都大学霊長類研究所)
「サルとササ:屋久島山頂部のサルの生態」
屋久島の標高1700m以上はササ類のヤクシマヤダケが優占する特殊な環境です。「ヤクザル調査隊」の島の全域調査やごく短い期間の調査で山頂部のササ原までサルがいることは分かっていましたが、どのような暮らしをしているかは詳しくわかっていませんでした。近年調査がなされ、西部の森いるサルともヤクスギ林にいるサルとも異なる山頂部のサルたちの暮らしが明らかになりつつあります。
澤田晶子(中部大学創発学術院)
「最新技術を用いたニホンザル研究の将来」
屋久島のニホンザル研究者のあいだでは、ペンとフィールドノートを用いた伝統的な調査スタイルが今でも受け継がれています。一方で、科学技術の発展によって「これまで見えなかったもの」が見えるようになったことで、新しい研究も次々と生みだされています。研究者の視線の先には何があるのか、屋久島でおこなわれている最先端の研究についてご紹介します。