第10回大会テーマセッション1「屋久島学ソサエティ設立10年を振り返り、更なる発展を語りあう」

日時

2022年12月3日(日)(大会1日目) 13:30-17:30

概要

屋久島学ソサエティは屋久島町の地で2013年に産声を上げました。以来10年の年月を経て、今年10回目の大会を迎えます。屋久島町の住民と、屋久島を研究のフィールドとして様々な分野で研鑽する専門家との相互交流と理解を基に、新たな屋久島学を築こうとする地域学会です。文系・理系といった垣根を払い、新たなプラットホームにおいて屋久島が抱える課題の解決や多くの疑問に答え、地域全体の発展に貢献し、同時に教育の場としての役割も果たすことを目的とする学びの場として存在します。 この10年間において多彩なテーマセッションが開催され、個々の研究成果も屋久島高校生の発表も含め多くが蓄積されてきました。今回のテーマセッションではこの10年を検証します。これまで屋久島学ソサエティの創設当初より関与された方から、新たに会員なった方まで、幅広い年代と分野からたくさんの参加者に発言いただき、来たる10年紀のソサエティ像が描けることを願っています。

タイムテーブル


13:30-13:40
趣旨説明
湯本貴和(屋久島学ソサエティ会長)

13:40-15:40
第1部「屋久島学ソサエティでのこれまでとこれから」

山極壽一 総合地球環境学研究所所長、前京都大学総長
吉田茂二郎 九州大学総合研究博物館協力研究員、元九州大学教授
矢原徹一 一般社団法人九州オープンユニバーシティ研究部長、九州大学名誉教授
手塚賢至 屋久島照葉樹林ネットワーク
中川正二郎 (有)ナカガワスポーツ代表取締役、屋久島地学同好会副代表
小原比呂志 一般社団法人屋久島アカデミー代表理事

15:40-15:50 休憩

15:50-16:50
第2部「わたしと屋久島学ソサエティ」

12人の会員による講演

16:50-17:30
第3部「屋久島学ソサエティにかける夢」

総合討論

講演要旨

山極壽一「サルと歩いた屋久島をゴリラから見つめる」
 1970年代の後半から屋久島とヤクシマザルに関わってきた。その経験を生かしてアフリカでゴリラと付き合ってきた。双方とも近年大きな変化があったが、それをどう乗り越えてどう未来を作っていくか。総合環境学の立場から考えてみたい。

吉田茂二郎「ヤクスギ林分の長期動態の解明から:現地調査資料と各種標本の重要性」
 1980年からヤクスギ優良林分内の試験林を引継ぎ、同林の動態解明を行ってきた。研究を重ね年輪年代学に出会い、それが円板収集につながり、さらに年輪コアから大気汚染と同被害に関する知見が得られた。これらの研究は、過去の資料や標本なしには考えられない。

矢原徹一「屋久島の植物に魅せられて」
 私がはじめて屋久島を訪れたのは1982年7月だ。このとき、屋久島に固有植物が何種あるのかすら正確にわかっていないことを知り、屋久島の植物相の調査を開始した。その結果、ハナヤマツルリンドウ、ヤクシマシソバタツナミなどの新分類群を発見した。当時、オトギリソウ属の新種を発見し「ヤエダケオトギリ」という仮称をつけたが、その後の再三の調査にもかかわらず、再発見できずにいた。その「ヤエダケオトギリ」が再発見され、今年私も自生地を確認した。その調査の帰路で、1400m付近に生育するタラノキ属の樹木が典型的なタラノキと異なることに気づいた。その後屋久島各地のタラノキ属を採集してみると、タラノキともリュウキュウタラノキとも異なる分類群が屋久島にある可能性が浮上した。この発見は、屋久島にはまだ研究が必要な植物が残されていることを示す良い例だ。一方で、ヤクシカが好んで食べるヤクシマカラスザンショウを今年の調査では発見できなかった。以前にあった場所で消失していた。屋久島で未知の植物を探る調査を続けるとともに、屋久島固有の植物を守るための努力を、関係者の方々の協力を得てさらに進めたい。

手塚賢至「ソサエティ10年の来し方から行く方を望むと」
 嗚呼、もう10年なのか。羞恥と自己満足が乱れる複雑な心境だ。ノンジャンルで専門的知見に甚だ乏しい私ごときに講演などは不似合いで出来そうもない。とは言え、臆面なくいろんなテーマセッションを企画したし、自省すればいくらかこの間10年の説明義務も果たさないといかんな、とも思う。地域学会としてソサエティの願いは屋久島に少しでも「市民の科学」を定着させる学びの場を創設し、住民と研究者が相互に学び合うことで屋久島が抱える問題解決に資する取り組みを行うと設立主旨にある。が、果たして10年の足跡はそれを実現できただろうか。問いかけと共に新たな10年史を描く端緒となるセッションになれば嬉しい。

中川正二郎「屋久島学ソサエティでの地学、岳参り、屋久島高校研究発表を振り返る」
 設立時より地学分野を中心に担当して来ましたが、まだまだ企画回数が少ないと感じています。文化面では現代の岳参りを発信し記録できたことは意義があったと思います。とても貴重な屋久島高校環境コースの研究発表を今後も継続してもらいたいと考えています。

小原比呂志「地域人材をつなぐということ、育てるということ」
 博物館や大学施設など知的集積の仕組みが少ない屋久島で、エコツアーガイド人材を様々な分野の調査研究を統合する存在として、また情報発信のインタープリターとして位置づけたいと考えてきた。このテーマに関して専門家⇔地域の双方向型活動を志向する屋久島学ソサエティがこの十年間に果たしてきた役割と、今後の展開について述べたい。

講演者プロフィール

山極壽一
 総合地球環境学研究所所長、京都大学理学研究科教授を経て、京都大学総長、日本学術会議会長を歴任。アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに人類社会の由来を探っている。環境省中央環境審議会委員。鹿児島県屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書に『家族進化論』(東京大学出版会)、『サルと歩いた屋久島』(山と渓谷社)、『暴力はどこからきたか(NHKブックス)、『サル化する人間社会』(集英社)、『ゴリラからの警告』(毎日新聞出版)、『スマホを捨てたい子どもたち』(ポプラ新書)、『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』(朝日選書)、『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(家の光協会)、『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)など。

吉田茂二郎
 九州大学総合研究博物館協力研究員。1979~96年度鹿大農学部、1997~2018年度九大農学部に勤務。旧熊本営林局の依頼で、1974~5年に両大学合同で設定したヤクスギ優良林分内の試験林を引継ぎ、長期の林分の動きを追ってきた。次第にヤクスギ林でしかできない超長期の動き、さらに大気汚染による健全度にも興味を持ちその解明を試みてきた。2019年3月に退職し、その後は現地調査資料やコアサンプル等の公開・保存方法を考えている。


矢原徹一
 一般社団法人九州オープンユニバーシティ研究部長、福岡市科学館館長、九州大学名誉教授(2020年3月に九州大学を退職)

手塚賢至
 1953年生まれ。1985年屋久島に移住、後「足博(足で歩く博物館を創る会)」「屋久島・ヤクタネゴヨウ調査隊」「屋久島生物多様性保全協議会」などなどを立ち上げ現在に至る。今、主な活動は「屋久島照葉樹林ネットワーク」において保護指定されていない原生林たる屋久島の低地照葉樹林の保全に注力し、あいも変わらずよく言えば多様な、はたまた無節操な屋久島の森羅万象世界を彷徨っている。

中川正二郎
 (有)ナカガワスポーツ代表取締役。屋久島地学同好会副代表。宮之浦岳参り伝承会代表。鹿児島県文化財保護指導員。屋久島町文化財保護審議会委員。5歳より屋久島で育つ。2003年にズーフィコス化石群を発見したことから地学を趣味として活動。2005年より宮之浦地区の岳参り復活に取り組む。

小原比呂志
 一般社団法人屋久島アカデミー 代表理事。鹿児島大学水産学部卒業。1993年屋久島野外活動総合センター創立。国内で最も初期からエコツーリズムに取り組み、さまざまなフィールドの持続可能な開発を行う。2022年一般社団法人屋久島アカデミーを創立。『屋久島大学』プロジェクトを推進し、オンラインを活用して屋久島ガイドの養成や国内外の関係人口の増強に取り組む。屋久島の巨木調査、立山杉など国内の天然杉・巨木の生態と屋久杉との関連をテーマにしている。
設立大会でのテーマセッション(2013年)
第4回大会でのポスター発表(2016年)
第2回大会でのエクスカーション(2014年)