森林リモートセンシングの最前線とヤクスギ巨木林調査の可能性

テーマセッション1
「森林リモートセンシングの最前線とヤクスギ巨木林調査の可能性」

屋久杉 写真提供NHK
写真提供NHK

12月15日(土) 13:30~16:30

日本の自然を代表する存在の一つである屋久島の杉の巨木群にはいまだ謎が多く、長寿化の仕組みはもとより個体群の全貌も把握されていません。一方で全地球的な気候変動がもたらす災害の増加や環境の変化は、すでに森林の生態にも影響を及ぼしています。ヤクスギの保全を考えるには、現状を知り、継続的な変化を見守る必要があります。今回のセッションでは、実際の森林調査に加え、航空機やUAV(ドローン)に搭載したLiDAR(レーザー反射測定システム)や人工衛星の観測センサによる調査研究など森林リモートセンシング技術の現在と、ヤクスギの森、特に巨木の保全に焦点をあて、現状と将来を考えたいと思います。

オーガナイザー:小原比呂志

加治佐剛(鹿児島大学農学部森林計画学研究室)
「空から森を測るリモートセンシング」

空から森林はどのように見えるでしょうか?航空機、人工衛星、UAV(ドローン)と空を飛 行する技術の発達により広大な森林を測る技術も発展してきました。本発表では森林リモートセンシングの変遷から最近の森林計測技術について紹介します。

加治佐剛 (かじさ つよし)
専門分野:森林計測学、森林リモートセンシング、森林計画学
フィールド:九州、カンボジア
研究テーマ:森林管理・木材生産に向けた高精度森林情報とICTの活用 熱帯季節林における森林利用と保全

高嶋敦史(琉球大学 農学部 与那フィールド)
「ヤクスギ老齢木のさまざまな価値」

現在のヤクスギ林は,江戸時代ごろの伐採後にまとまって更新したスギの集団の中に,当時の伐採を免れた老齢なスギが点在する林相を呈しています。後者の老齢なスギは,屋久島の森が人間による伐採活動の影響を受ける前から生育していた個体と考えられ,原生的なヤクスギ林の様子を今に伝える貴重な存在です。演者らは,1973~74 年に設置された5 ヶ所の固定試験地の長期モニタリングから,ヤクスギ林の構造や動態の解明に取り組んできました。また,切株の調査も実施し,江戸時代以前の森の様子の推定にもあたっています。発表では,これらの地上調査で得たデータから見えてきたヤクスギ老齢木に関する知見を紹介し,その価値について考えていきます。

高嶋敦史(たかしま あつし)
学生時代の2001 年より,ヤクスギ林の構造や動態の解明にむけた調査研究に取り組んでいる。現在は,世界自然遺産登録を目指す沖縄島北部のやんばる地域など,南西諸島の森林の保全及び利用に向けた研究も進めている。

井田彰彦(NHK エンタープライズ自然科学番組 チーフ・プロデューサー)
「航空リモートセンシングの屋久杉調査への応用」

地形計測による防災や、樹高・樹冠計測による森林保全に活用される航空測量技術を用い、2017 年に屋久島の森林調査を実施した。要素の1つであった「高齢木・巨木の調査」では、測量データを解析し、現地を捜索。『屋久島”伝説の超巨大杉”』としてNHK 総合テレビで全国放送した。
測量データからは、”巨木が密生する森”、”伐採された巨木の森”、”伐採後に復活した森”など、これまであまり語られなかった森本来の姿が浮かび上がってきた。一方で、巨大杉の調査においては解析の難しさも明らかになった。測量データの解析で見えてきた森の様子、現地捜索の体験記、そして視聴者から寄せられた感想を交えてお伝えすることで、今後の調査の意義と可能性について考えていきたい。

屋久杉 写真提供NHK
写真提供NHK

井田彰彦(いだ あきひこ)
2003 年NHK 入局。番組制作ディレクターとして「ダーウィンが来た!」など主に自然番組を担当。現職は、NHK エンタープライズ 自然科学番組 チーフ・プロデューサー。
・フランス国際水中映像祭 パルムドール(最優秀作品賞、2013)
・中国ドラゴン賞 金賞
・アルベール自然映像祭 最高脚本賞
・科学技術映像祭 優秀賞 など。

総合討論座長:湯本貴和(京都大学 霊長類研究所)