第10回大会 一般口頭発表

2022年12月3日(土)大会第1日

11:10-11:25
「特定非営利活動法人屋久島いきもの調査隊が発足しました」
半谷吾郎(特定非営利活動法人屋久島いきもの調査隊/京都大学)

 わたしたちは、「ヤクザル調査隊」と自称して、1989年以来、毎年屋久島で、大勢のボランティアの調査員を募って、ニホンザルの分布調査を行ってきました。2022年に34回目の調査を行い、参加者はのべ1600人以上、実人数にして1000人以上にも上ります。この調査を母体にして、特定非営利活動法人屋久島いきもの調査隊が発足しました。ヤクザル調査隊が行ってきた調査研究活動をこれからも継続するとともに、自然にかかわる人材育成の面を強化し、研究以外の活動にも発展させていきたいと考えています。当法人の活動と、その目指すものについてご紹介します。

11:25-11:40
「ニホンザルの絶滅がヤマモモの分布パターンに及ぼす影響」
渡邉彩音(名古屋大学大学院生命農学研究科)

 屋久島と、今から約70年前にサルが絶滅した種子島で、サル散布植物であるヤマモモの分布パターンを比較し、「森林の空洞化」が種子散布機能に与える影響を評価した。屋久島、種子島どちらの調査地においても、ヤマモモは尾根に偏った分布を示し、両調査地で分布パターンに差は見られなかった。一方で、成木のサイズや実生密度に違いが見られたことから、ヤマモモの分布パターンの決定に際して、環境要因が大きくはたらいている可能性が示唆された。

11:40-11:55
「屋久島と種子島におけるウナギ属魚類の種組成形成メカニズム」
熊井勇介(東京大学)

 南日本に位置する屋久島と種子島には、オオウナギとニホンウナギの2種のウナギ属魚類が生息しており、屋久島の河川ではオオウナギが、種子島の河川ではニホンウナギが優占する。しかし、隣接する2島でこのような種組成の差異が生じるメカニズムはこれまで明らかになっていない。本研究における野外調査と室内飼育行動実験の結果から、2種の環境嗜好性は大きく異なることが明らかとなり、2島の対照的な地形や土地利用がこのような種組成の差異を生み出している可能性が示唆された。

2022年12月4日(日) 大会2日目

10:10-10:25
「ヤクシマエゾゼミ奮戦記」
金井賢一(鹿児島県立国分高校)

 演者は鹿児島県立博物館勤務時から計3回ヤクシマエゾゼミの採集、撮影を試みてきたが、ことごとく打ちのめされて来た。その過程を振り返り、今後の方針を検討するとともに、情報提供をお願いしたい。

10:25-10:40
「森のごちそう?西部林道でヤクシカ死体を食べる外来タヌキ」
栗原洋介(静岡大学)

 2022年2月に西部林道で瀕死のシカ1個体に遭遇し、死亡19日後まで死体の状況を記録するとともに、死体を訪れる動物とその行動を自動撮影カメラで記録しました。その結果、屋久島では外来種であるタヌキが頻繁に死体を訪れ、熱心に腐肉を食べている様子が観察されました。今回は哺乳類による腐肉食に関する事例を紹介し、外来タヌキが世界遺産地域の森林で果たす役割について考えます。

10:40-10:55
「ヤクシカはボトルネックを経験したか?」
揚妻-柳原芳美( Waku Doki サイエンス工房)、早川卓志(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、揚妻直樹(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

 私たちは糞中DNAを用いることにより、これまで難しかった保護区や山岳部を含めた屋久島全域のヤクシカの遺伝分析をおこなった。ミトコンドリアDNA(D-loopを含む500塩基対)から、屋久島で10種、口永良部島で2種(1つは屋久島と共通)の計11種のハプロタイプが検出され、ハプロタイプネットワークは星型を示すことが分かった。このことから、屋久島のシカ個体群は比較的最近経験したボトルネックの後、一斉放散によって高い遺伝的多様性を獲得したと考えられた。

10:55-11:10
「山頂のシカとサルはササ原のどこを使うか?」
本田剛章(京都大学野生動物研究センター)

 本研究は屋久島山頂部のササ原を利用するサルとシカの異なる2種の哺乳類の土地利用比較することで、両種の環境適応を明らかにすることを目的とする。ルートセンサスで糞や音声・目視情報を集め、サルとシカの位置情報を調べた。またササの資源量も調べた。サルは7、8月以外の季節に森林に近いササ原を利用していた。一方シカは通年で森林に近いササ原を利用していた。ササの資源量はサルとシカの土地利用を説明しなかった。


11:10-11:25
「屋久島・安房林道における鳥類相の垂直分布」
内藤アンネグレート素(京都大学理学研究科)

 鳥類の分布は平面地図で見るより三次元的であり、同じ地域内でも標高によって生息する種が異なる。本研究では2022年3月中旬の3日間、屋久島の安房林道(270-1400 mの間)で鳥類センサスを行った。調査の結果、標高600 m 以下の照葉樹林帯、1000 m 以上の針葉樹林帯、600-1000 m の移行地帯、それぞれの標高に生息する主な種が異なり、種の多様性が移行帯で最も高いことがわかった。このような垂直分布は環境、植生、他種との棲み分けなどが関係していると考えられる。

11:25-11:40
「屋久島高地で植物の送粉生態はどう変化しているのか?」
長谷川匡弘(大阪市立自然史博物館)

 屋久島高地では、近縁分類群ではマルハナバチに送粉される植物が複数種分布しているが、これらの開花期(夏~秋)にはマルハナバチが不在の環境となる。このためこれらの植物は、近縁分類群と異なる送粉生態を持つ可能性が極めて高い。2020年以降、コロナウィルス感染症拡大防止の観点からほとんど調査ができていないが、今後、屋久島高地で系統的に異なる複数種の送粉生態を調査し、これらの植物で並行的に、マルハナバチとは異なる送粉者への適応が起こっているか検証したい。