日時:2026年6月29日(月)20:00-21:30
会場:オンライン
講演者:黒江美紗子(長野県環境保全研究所)
*共同研究者:布施健吾,古市生,廣田峻
発表タイトル:「ヤクシマカワゴロモはなぜ急流で生き残れるのか?― 水中で暮らす希少植物の種子散布の謎 ―」
ヤクシマカワゴロモHydrobryum puncticulatumは、屋久島の一河川のみに生育する極めて希少な沈水植物です。急流の岩に張り付くように生育し、一年の大半を水中で過ごします。しかし、その生育地では洪水や転石の移動が頻繁に起こるため、下流へと流され移動していくだけでは,一湊川の個体群は維持されないはずです。では、ヤクシマカワゴロモはどのようにして分布を維持しているのでしょうか。
本研究では、生育パッチの長期追跡調査やDNA解析を通じて、本種の分布維持機構を調べました。その結果、生育パッチは洪水によって消失する一方で、新たな場所に出現することが明らかになりました。また、急流環境でありながら、種子や個体の移動は下流方向だけでなく、水平方向や上流方向にも起こっている可能性が示されました。この移動にはトビケラ類が一役買っているかもしれません.トビケラ類がカワゴロモの蒴果を巣材としていることが確認され、種子散布に水生昆虫が関与している可能性が見えてきました。
一方で、DNA解析からはヤクシマカワゴロモの遺伝的多様性が非常に低いことも明らかとなりました。これは環境変化に対する脆弱性を示唆する結果であり、本種の保全を考える上で重要な課題です。本講演では、屋久島の急流という特殊な環境に適応したヤクシマカワゴロモの生態を紹介しながら、「水中で花を咲かせる植物はどのように種子を運ぶのか」という自然史の謎に迫ります。また、世界でも類を見ない生育環境をもつ本種の保全に向けて、今後必要となる研究についても考えます。
屋久島集落記録の会データベース (←「一湊の自然」にヤクシマカワゴロモが掲載されています!)