第12回大会テーマセッション1「屋久島山岳部の管理に向けた挑戦:山のトイレと登山道保全の新たな戦略」

屋久島の環境を考える上でトイレと登山道の維持管理は重要なテーマのひとつです。2014年の第二回屋久島学ソサエティ大会で「山のトイレを科学する」というテーマセッションが開催され、そこで行われた議論を契機として新高塚小屋TSS式トイレの復帰と継続の要望書が屋久島ソサエティから環境省に提出されました。それから10年ほどたち、山の管理に関して新たな課題も出てきています。今回のテーマセッションでは、トイレに関してはこれまでの検証を行うとともに、新たな技術の検討をしていきます。またもうひとつの課題として登山道に関して現状を共有し、対策として取り組まれている近自然工法を紹介します。このテーマセッションを、屋久島の山岳部の維持管理が進展する契機にしていきたいと思います。

日時

2024年12月14日(土)(大会第1日) 13:30-16:30

タイムスケジュール

13:30―13:40  趣旨説明 古賀顕司

13:40-14:05 竹中康進「新高塚小屋TSS式トイレの検証と屋久島山岳トイレの今後、登山道維持管理について」

14:05-14:30  渡邊 太郎「屋久島のトイレや登山道などの維持管理におけるガイドの役割」

14:30-14:55  田中 俊徳「トイレと登山道から考える国立公園の管理体制」

14:55-15:20  岡崎 哲三「大雪山国立公園の山岳管理」

15:20-15:30 休憩

15:30-16:20 自由討論

16:20-16:30 総括 

登壇者プロフィールと発表の要旨

〇竹中康進(たけなかやすのり)
環境省屋久島自然保護官事務所 首席企画官。2001年に環境省に入省。西表石垣国立公園(沖縄県西表島)、在ブラジル日本大使館(ブラジル)など、様々な場所を経て2022年から屋久島の保護官として赴任。

発表タイトル:「新高塚小屋TSS式トイレの検証と屋久島山岳トイレの今後、登山道維持管理について」
要旨:新高塚小屋に設置されたTSS式トイレの現在までの運用状況を検証します。TSS式トイレは、環境保護と登山者の便宜を考慮した新しいトイレ技術として導入され10年以上が経過し、これまでの効果と問題点を評価する。また現在関係者と議論している山岳トイレの今後の方向性について紹介する。更に環境省としての登山道の維持管理における取り組みや課題についても紹介する。

〇渡邊 太郎(わたなべ たろう)
(株)山岳太郎 代表、屋久島観光協会理事。2002年屋久島に移住。ガイドを始める。ガイド会社山岳太郎の代表。屋久島公認ガイド、日本山岳ガイド協会の理事もつとめている。

発表タイトル:「屋久島のトイレや登山道などの維持管理におけるガイドの役割」
要旨:我々ガイドは、登山道の整備や山小屋トイレの維持管理に携わっています。新高塚小屋のTSS式トイレは、ガイド組織としてメンテナンスを細やかにすることで運用の維持をしてきました。登山道や施設の維持には、「巡回パトロール」や近自然工法を積極的に導入し、行政機関や民間企業と協力して環境保全活動を進めています。私たちガイドは、登山道整備に関する仕組みや保全活動についてお客様に伝え、自然体験を通じて保全の重要性を感じてもらうよう努めています。

〇田中 俊徳(たなかとしのり)
九州大学アジア・オセアニア研究教育機構 准教授。1983年鹿児島県出身。大阪大学で歴史学を学んだ後、京都大学大学院にて環境政策を専攻。ユネスコ本部世界遺産センター研修員、北海道大学大学院法学研究科特任助教、東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授等を経て2021年4月より現職。

発表タイトル:「トイレと登山道から考える国立公園の管理体制」
要旨:これまで世界中の国立公園や世界遺産をめぐる機会がありました。あまり大きな声では言えませんが、トイレや登山道で不快な思いをしたのは日本くらいです。世界遺産・屋久島ですらトイレの管理がまともにできていない現状は、観光立国を目指す日本が解決すべき大きな課題です。その根本原因に、管理者である環境省の人員、予算、専門性の不足があります。世界の国立公園の現状も踏まえながら、次の一手を一緒に考えたいと思います。

〇岡崎 哲三(おかざきてつぞう)
一般社団法人大雪山・山守隊 代表。1975年生まれ 札幌市三角山出身。登山道整備や技術指導で一年中全国を歩き回り、山を治しています。合同会社 北海道山岳整備、おかファーム代表。近自然工法と武道を学ぶことがライフワーク。

発表タイトル:「大雪山国立公園の山岳管理」
要旨:大雪山を管理目線で見ると「広大・寒冷・脆弱・利用者少ない」。 ヒグマという日本最大の獣が多く生息できる生態系の深さがありながら基礎である表土は薄く、少ない利用者でも壊滅的に崩れる。 登山道侵食、ヒグマ対策、トイレ管理、山小屋の在り方、情報発信・・ 日々の悩みを愚痴ります。「近自然工法」 全国に広がる近自然工法だけど「手法」として見るか「考え方」としてとらえるかで進む方向が全く変わります。そして大事な基準がもう一つ「人が喜ぶ道」か「自然が喜ぶ道」か。 生態系が機能する道とは何でしょうか。

〇古賀 顕司 (こがけんじ)コーディネーター
屋久島山岳ガイド連盟 代表。