屋久島はさまざまな領域の研究者や学生を魅了し、多種多様な研究が蓄積されてきました。屋久島学ソサエティは屋久島に住む人々と研究者がともに学びあう知のプラットフォームとなることを目指し活動し、昨年10年の節目を迎えました。次の10年に向けて屋久島で学ぶ児童生徒の学びに注目します。毎年12月の大会で、屋久島高校環境コースの生徒が研究発表を行っています。一方で、屋久島町の小学校9校、中学校4校との連携は多くはありません。探究マインドを刺激する屋久島を、学校の先生は教材として、どのように利用されているでしょうか。このセッションでは、いま学校で行われている屋久島を素材にする教育実践を共有し、子どもの学びたいこと、大人が子どもに学んでほしいことを議論します。子どもたちの学びの充実を知り、大人も学びたいことや、大人にも学んでほしいことに議論を広げていきましょう。屋久島学ソサエティが知のプラットフォームとして、さまざまな学びの場につながりを広げていくきっかけになるアイデアを持ち寄りましょう。
発表要旨と登壇者プロフィールはこちらから(←クリックするとファイルがひらきます)
日時
2024年12月15日(日)(大会第2日) 13:30-16:30
タイムスケジュール
13:30-13:40 趣旨説明 早石周平
13:40-14:20 山極寿一「屋久島で学ぶって何だ」
14:20-14:40 手塚賢至「屋久島を学びの島にするために・八幡小学校での実践」
14:40-15:00 杉下真絹子「Act LocallyからThink Globallyへ(ここ屋久島での実践を通して世界と繋がる)」
15:00-15:10 ―休憩―
15:10-15:30 福元豪士「子どもたちの環境教育から考える持続可能な屋久島と人材像」
15:30-15:40 貴舩楓「屋久島・口永良部島に訪れる学生にとっての学びと、それに触れる島の子の学びとは?」
15:40-15:45 ―休憩―
15:45-16:30 5名+花木先生によるパネルディスカッション
登壇者のプロフィールと発表要旨
〇山極寿一(総合地球環境学研究所)
総合地球環境学研究所所長。京都大学理学部教授を経て、京都大学総長、日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、国立大学協会会長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員、環境省中央環境審議会委員を歴任。鹿児島県屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書に『家族進化論』(東京大学出版会)、『サルと歩いた屋久島』(山と渓谷社)、『暴力はどこからきたか』(NHKブックス)、『スマホを捨てたい子どもたち』(ポプラ新書)、『共感革命 社交する人類の進化と未来』(河出書房新社)、『森の声、ゴリラの目』(小学館新書)、『争いばかりの人間たちへ』(毎日新聞出版)など多数ある。
発表タイトル:「屋久島で学ぶって何だ」
発表要旨:どんな動物でも、一生の間に様々なことに出会って学ぶ。でも、人間の学びはちょっと違っている。それは、サルやゴリラに比べて人間の子どもの成長の仕方がユニークだからである。まず、「猿真似」はサルにはできず、人間の子どもにだけ早い時期にこのコピーする能力が発達する。以後、視線追随や共同注意など、他者と情報を共有しながら学び、さらに他者の心の中を推察しながら自分の行動を変えていくようになる。共感力が学びの源泉であり、生物と非生物が織りなす風景を自分の心に取り込み、それをイメージとして膨らますようになる。そういった能力を駆使して、屋久島ではどんな学びが可能であろうか。屋久島は1993年に世界自然遺産に登録され、これまでに登録された5つの日本の自然遺産の中で唯一「自然美」が将来に残すべき遺産として謳われている。実は、ある種の生物や生態系、生物多様性を保全する目的で設立される世界の国立公園に対して、日本の国立公園は「優れた自然の風景地」を保全する目的で作られた歴史がある。1974年に制定された自然保護憲章も、自然をとうとび、自然を愛し、自然に親しもう、の後に「自然に学び」が来る。まずは自然に共感することが求められているのだ。これは日本人の感性に基づいた自然との付き合い方であると思う。人間は他の動物と比べると、動く、集まる、対話する、という3つの自由をもっている。多様な生物が複雑に入り組む屋久島の自然に学ぶためには、風景を見る自分の目に文化が宿っていることを自覚したうえで、いのちといのちがどうつながっているかに目を凝らし、その流れを追いかけ、縮尺を変えて眺めてみることが必要である。それには常に面白い問いを立て、みんなで考え、答えを出すことを心掛けることが大切だ。私が屋久島で立てた問いが、これまで何につながってきたかを例として挙げながら、屋久島の学びについていっしょに考えてみたいと思う。
〇手塚賢至(屋久島・ヤクタネゴヨウ調査隊)
屋久島に移住以来40年、西部林道拡幅工事計画の再考を促す「足博」(足で歩く博物館を創る会)を端緒として「屋久島ヤクタネゴヨウ調査隊」「YOCA屋久島まるごと保全協会」「屋久島生物多様性保全協議会」「屋久島照葉樹林ネットワーク」などを立ち上げ代表を努め屋久島の生態系保全活動を現在も継続している。職業、年齢不詳。
発表タイトル:「屋久島を学びの島にするために・八幡小学校での実践」
発表要旨:屋久島の南部、平内にある八幡小学校からは絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの森が望まれます。
屋久島ヤクタネゴヨウ調査隊は八幡小学校と連携して自生地観察登山と教室での授業を15年間続けています。「たくさんの生き物たちが繋がりあって生きている地球」をテーマとした授業では屋久島の生物多様性からアニミズムまで、これまで取り組んできた保全活動を通して子供たちと共に生命をいつくしむことの大切さを屋久島の自然から学びます。
発表スライドの一部
〇杉下真絹子(屋久島町ESDグローバルアドバイザー)
関西大学法学部(国際法)卒業後、ピッツバーグ大学院(開発学)、ジョンズホプキンス大学院(公衆衛生学)にて修士号取得。カレイドフォレスト株式会社 代表取締役。屋久島町教育委員会ESDグローバルアドバイザー、屋久島尾之間診療所理事。日本人初の米国の国際団体ANFT森林セラピーガイド兼国際ガイド育成の公認トレーナー。森林セラピーソサエティ認定森林セラピスト。アフリカ諸国を中心として日本と世界、そして人と人をつなぐことを通して“健康”そして“豊かさ”格差の社会課題解決に20年ほど取り組んだ後、2020年、家族と共に屋久島へ移住。これまでの「わたしの健康」から「わたしたち地球の健康」へとテーマをシフトさせ、【deep森林浴™】を中心に一般向けや企業向けのプログラムを展開中。
発表タイトル:「Act LocallyからThink Globallyへ(ここ屋久島での実践を通して世界と繋がる)」
発表要旨:子供たちの「なぜ」から生まれた地域の課題に着目し、それをひも解き、解決策を提案し、そして行動に移してみる、そんなプロジェクト型ESDが屋久島の色んな学校で始まっている。これは、アフリカなどの国々で私が長年国際協力の専門家として必要だったスキルであり手法とも言えるが、屋久島では子供たちがすでにESDとして実践しているのだ。しかも、自分たちの目の前の(地域)課題解決を通して、すべてのSDGsの目標達成に裨益するだけでなく、さらには世界に貢献にするという考え方を伝えている。だから屋久島での子供たちの実践が世界と繋がると、ワクワクしてしまう。そう、Act LocallyからThink Globallyへ。
〇福元豪士(屋久島町ESDグローバルアドバイザー)
NPO法人HUB&LABO Yakushima代表理事。屋久島町ESDグローバルアドバイザー。
屋久島高校魅力化コーディネーター。屋久島生まれ屋久島育ち。屋久島Uターンで11年目。愛する我が子たちが「屋久島を大好きだと誇れる」ように環境教育、地域づくりなど日々「屋久島環境教育の島プロジェクト」進行中。「青い地球と共に私たちはどう生きるのか?」を探究しながら、「人と自然、人と人、人と社会をつなぎ、青い地球と共に生きる文化をつくる」社会を目指している。
発表タイトル:「子どもたちの環境教育から考える持続可能な屋久島と人材像」
発表要旨:環境教育における対象は,環境や自然と人間との関わり,環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式との関わりなど複雑な問題が多いことがその特徴です。子どもたちは日々多角的な視点で屋久島の未来を感じ、持続可能な社会の構築という視点から「環境」を捉え直しています。子どもたちが問いをもち考える「環境保全=人と自然が共に生きる社会」は未来への希望です。学びの現場からこれからの持続可能な屋久島と人材像について考えます。
〇貴舩楓(屋久島高校卒業生、株式会社ダイブ地方創生事業部)
口永良部島で育ち、2019年に屋久島高校卒業。島に研究で訪れていた大学生に憧れて、慶應義塾大学環境情報学部に入学。大学では、学生がよそ者として何を学び、地域の子どもが当事者としてよそ者から何を学ぶのかをテーマに、実体験をもとにした絵本を作成。現在は株式会社ダイブの地方創生事業部にて、よそ者として、岡山県阿波村という人口400人の村で宿泊業に関わっている。
発表タイトル:「屋久島・口永良部島に訪れる学生にとっての学びと、それに触れる島の子の学びとは?」
発表要旨:口永良部島で育ち物心ついた時から夏休みの遊び相手は、大学生だった。大学生と間近に触れて、私が触れたのは大学生が引き出す島の大人の「島」への思いだった。そういう時間は、子どもながらに学びがあったのを覚えている。そして、大学生になった私は、逆によそ者として秋田に3年間関わりながら、地域の探求学習の授業構築に携わることになる。そこで、泥臭くも人間らしくもがく姿を見てくれてる人がいた。その中に、地域に関わる価値を感じたのだ。地域の人とよそ者の両方の経験を振り返りながら、両者にとって関わり合う価値について考えたい。
〇早石 周平 コーディネーター
鎌倉女子大学教育学部 准教授